――― 一大ブームは当時の業界としては嬉しい悲鳴だったのではないでしょうか?
Marco そうですね。あの頃は新規にオーダーを取るよりも、受注したオーダーをいかにこなすかが重要になっていました。ただオフィスで注文を受け取るだけの忙殺された日々にうんざりしていました。そんな中、幸運にも先輩からクラボウの販売責任者に紹介されたんです。
―――ここでクラボウとの出会いがあったんですね。
Marco ええ、クラボウはヨーロッパの代理店を探していました。説得のために、彼らはタイの紡績綿工場→中国→日本とアジアの全生産工程を私に見学させてくれたんです。そして、私はその熱意と日本の技術に惹かれてヨーロッパの代理店となり、クラボウのヨーロッパのパートナーとしていられることを誇りに思っているんです。
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イタリアを起点にヨーロッパ各国を日夜飛び回るMarco Bonzanniさん。長い間クラボウデニムのメンバーとしてヨーロッパを支えてきた彼の情熱溢れる想いをお届けします。
ホテル業界から一変!テキスタイル業界との出会い
――Marcoさんのスタッフ歴は20年だそうですね。
クラボウの一員になる前は何をされていたんですか?
Marco 元々はドイツでホテル業界にいました。ある時、ふと「天職じゃないな」と感じ転職のために故郷のベルガモに戻りました。当時ベルガモには働ける大きな業種がいくつかあって、金属、エレクトロニクス、そしてテキスタイルの中からスイスの大手織物会社「Legler社」に就きました。
―――入社後はどんなことをされたんですか?
私は1981年6月に内勤としてオフィスで働き始め、スカンジナビアと米国の市場を担当となり、一人の偉大な先輩と知り合いました。
その先輩から仕事や生地の事を色々教わり、それからどんどん生地の事が好きになっていきました。
―――Legler社はどんなところでしたか?
Marco 生地についてたくさんの知識と経験を得ることができ、私にとっては生地の「大学」のようでした。今日でもヨーロッパ繊維業界において、Legler社出身の素晴らしい人材に出会うことが多くあります。
―――なぜ辞めてしまわれたのでしょう?
Marco 勤め始めたとき、先輩が素晴らしい生地を持って世界を旅する姿がカッコイイと思いました。先輩の補佐をする傍らでわくわくするような冒険心がくすぐられ、生地について学ぶうちに自分でも先輩達のように、生地を紹介しに世界各国を飛び回りたいと思いましたが、その機会がLegler社ではしばらくは来ないことに気がついたので、私は別の会社に行く事を考え始めました。
例えば、あなたはレアル・マドリードの選手で補欠としてベンチに座っていて、目の前で試合を見ているとします。するとあなたもそのフィールドでプレイしたい、とうずうずしてくるでしょう? そんな感覚です。私はいつも世界を知る事や、旅をすることに魅了され続けてきました。英語・仏語・独語を話していたので自分の足元に世界があると感じていたんですね。
―――すぐにアクションは起こされなかったんですね。
Marco そうですね。いくつかのステップを経て1994年にはLegler社の輸出管理者になりました。当時Legler社はまだ綿、コーデュロイ、デニムで年間1,500万メートルの布地を生産していました。2000年年末から2001年年始に、デニムはかつてない一大ブームが起こったんです。
クラボウとの出会いで訪れた転機
販売員だからこそデニムの品質にこだわり、情熱をかける
―――少し話題を変えて、ジーンズを購入しようとする人に1つアドバイスをするとしたら何にしますか?
Marco 真の意味での「デニム」を知って欲しいと思います。デニムが発明された当時は主に14オンスという重い生地がメインだったんですよ。当時は作業着として強くて長続きしなければならないものでした。11オンスのジーンズだと、14オンスのように必要な強度を保てません。私は、12オンス以上の生地で作られた王道の5ポケットジーンズが本当のジーンズだと思っています。
―――それだけ品質に対してこだわりがあるんですね。
Marco はい。結局のところ、布の本質は基となる糸の品質にあり、それが最終的にデニムの品質を左右する物と信じています。
消費者はブランド名に惑わされますが、もし、良いジーンズを買えば長持ちしますし、飽きることはありません。良いジーンズは高いかもしれませんが、長く履き続けられるということなんです。
デニムは時代に合わせてどんどん進化している
―――Marcoさんの愛するデニムに何かわくわくするような新展開はありますか?
Marco ストレッチデニムですね。デニムは元々綿で作られた製品ですが、ストレッチデニムは基本的なデニムからのバリエーションの例だと考えています。「本当のデニムとは?」という質問に戻ってしまうと、ストレッチデニムは私が思う伝統的なデニムとは違うまた別のものになってしまいますが…現代を表現したデニムだと思います。
―――うーん難しいですね。逆に、どんどん失われて残念と感じるものはありますか?
Marco 「デニム」という言葉自体が大雑把に捉えられていることですね。デニムじゃない「何か」をデニムと呼び誤解を招いています。1970年代のデニムは「本来のベーシックなデニム」が主流でした。それが大きく変わったのは2004年から2005年のことです。それまではブランドには多くの知識があり、すべてのデニムのブランドはDNAをそれぞれ持っていたのです。ブランドの本質自体をコピーすることは不可能だったし、デザイナーはブランドをリードして良し悪しを決めていた…ユニークなビジョンと想像力を持ち合わせていたんです。
―――その後の企業はMarcoさんの目にどの様に映りましたか?
Marco ほとんどのブランドが大衆化してブランドの信念を失っていきました。彼らは自分自身で成功したことすら忘れてしまったように思いますね。この流れが私の母国のジーンズショップを潰していったように感じます。イタリアに存在しないということがとても残念です。
クラボウと、デニムと
――現在でもクラボウはデニムづくりに励んでいますが、気に入ってる商品があったら教えてください。
Marco クラボウの中でもロングセラー商品となっているKD55というデニムです。14オンスで綿100%ととってもシンプルなデニム生地です。
―――「本当のデニム」を愛するMarcoさんらしいチョイスですね。
Marco これこそデニムの神髄!と言えるでしょう。私はこれさえあれば何も要らない…!って思うんですけど言い過ぎですかね?(笑)
―――そんなMarcoさんは21世紀のデニム・カンパニーに対して今何を考えていますか?
Marco 私は商品を最善の方向に昇華させることですね。ここ3年で感銘を受けるヨーロッパのブランドと出会い、情熱的な人たちと会ってきました。彼らは近い将来成功するブランドだと感じています。私は彼らの業界を再建し、生地や商品づくりにも妥協しない情熱とともに成長していきたいと考えています。ロマンチックに言うと、森の中の美しい花に目が離せなくなるくらいずっと眺めていたくなるような熱い情熱を持って、満足のいく仕事をしていきたいと思います。